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Let's Concert

コンサートの企画・立案から公演当日まで
北島町立創世ホールの場合
小西昌幸

はじめに
  ■依頼されたのは、「音楽演奏会の企画から公演当日までの取り組みについて」というテーマである。私は、北島町立図書館・創世ホールという複合文化施設で、催しの企画や広報の仕事をしている。その担当になって1998年12月末で4年5か月になる。ほとんど自己流で、ヤミクモにやってきたので、一体どの程度参考になるか分からないが、この機会にまとめてみることにした。近世雑楽団エストラーダの川竹団長には大変お世話になっているので、頼まれたら断わるわけにはいかないのである。
■シロウト同然の私にとって、徳島県生活文化国際総室が、95年5月から97年3月にかけて県内の公立文化施設職員を対象に行なった連続講座「アート・プロデューサー養成講座」は、誠に役に立った。大手広告代理店・博報堂に殆ど任せっきりにして、湯水のように血税を注ぎこみ、20億円以上を使った「神戸〜鳴門ルート全通 記念事業」などと比べて、この講座は100万倍ぐらいの価値のある、意義深い企画であった。

企画の決定
 
協力者・理解者の必要性
■催しは1人ではできない。これはいうまでもないことだ。公立文化施設の催しで企画立案をして決済がおり、催しが実現に向かうためには、良き理解者が必要である。創世ホールの場合、私の直属の上司である小山建夫所長が「好きなようにやってみろ」といってくれたからこそ、一連の催しが実現できたのである。★1
■そして催しとなると、当日の受付やら、駐車場の整理係、会場係などが必要になる。創世ホールの場合、図書館との複合施設なので、図書館司書の方々にもお手伝いいただいているし、それでも人手が足りないときは個人的繋がりを使って、お手伝いいただいたりしている。

基本認識
■まず、企画者が見たいもの、聞きたいもの、つまり好きな内容の催しを企画する。これは当然であって、嫌いなものを企画しても宣伝に力が入る訳がないのである。それと予算とのからみがあるので、必然的に「実現できるもの」を企画することになる。

施設のポリシーと節度の自覚
■ただし、一定の節度というかバランス感覚は必要である。そのホールなり施設なりの器から、はなはだ逸脱したものは具合が悪い。例えば、いくら私白身がパンク・サラリーマンを自称しパンク・ロックを好きだからと言って、創世ホールではパンク系の催しは企画しない。客席が唾まみれになったりしたら困るのだ。同様にエッチなショーも公立施設ではやるべきではないと思う。

企画・立案
■どんなものを企画立案するか、企画者はさまざまな引き出しを常日頃もっているべきであろう。そのためには、日常生活の中でも目配りし、情報収集する姿勢が大切だと思う。新聞や雑誌等の記事、ラジオやテレビ等の放送などで、自分のアンテナに引っかかったものを資料として常に手もとにおいておく。気になるアーティストのCDが出たら、入手する。そういうマメさが必要である。
■枕元にメモとペンを置いておき、アイデアが浮かんだら、いつでもすぐに書きとめる習慣を作る。私の場合、特にシリーズ化する演奏会のタイトルは、新聞などにほんの数行掲載される場合でも読者に情報が伝わるように気を使う。例をあげると、「北島トラディショナル・ナイト」という演奏会シリーズの第1回は「アイルランド音楽の夕ベ」、第2回は『アイリッシュ・ハープの世界」というタイトルだった。これらのタイトルから、アイルランド音楽愛好者の胸がときめいたりする訳である。

出演交渉
■出演してもらいたいアーティストが決まったなら、日程調整と出演交渉をしなくてはならない。まず、あらかじめ何月中旬頃という風に、こちらのだいたいの日程を決めておき、連絡を取り出演交渉をする。これは手紙、電話、ファクシミリ等を併用する。連絡先は、図書館の『音楽家人名事典』やその他様々な方法で調べる。まず最初は、電話をかける。 《例》「こちらは、徳島県の創世ホールという公立文化施設で催しの企画を担当しております小西と申します。私のところでは、このたび○月○日前後にアイルランド音楽の演奏会を開催しようと考えておりまして、つきましてはぜひご出演をお願いしたいのです。出演料についてですが、予算が全部で□□万円しかございません。従いましてアゴ足込みで▽▽万円ということでご了承いただけたら大変ありがたいのですが。勝手をいって申し訳ございません。詳しいことは別 便で手紙をお送りいたしますので、それをお読みいただいて、ぜひ前向きなご検討をお願いいたします」。
■そして手紙を送る。この手紙には出演依頼、催しの内容、出演料の金額、交通 手段等についても明記しておく。また、過去に同種の催しを手がけているなら、そのときのチラシや当日パンフレットなども同封するとよい。催しの6か月ぐらい前には済ませておくのが良いと思う。この時、私は連絡用に数百円分の切手を同封するようにしている。出演者から写 真などを送ってもらわねばならないからである。確定の返事をもらうために、頃合を見計らって、再度電話をかける。演奏会の出演料などについては、誤解を招かないように注意する。例えばその金額が旅費や宿泊費を含むものであるということも明確に伝える。金額は絶対にあいまいであってはならない。

「企画書」の作成と後援申請
■出演者の「OK」がでれば、催しの当日までのスケジュールをたてる。そしてきちんとした「企画書」を作る。企画書には、催しの日時、会場、催しのタイトル、出演者の名前、出演者のプロフィール、入場料、企画した目的や内容、催しの意図や狙い、主催者、後援団体、間い合わせ先などを記載する。公立施設の場合、これを立案文書に添付して理事者の決済をもらう。
■また、新聞社等に後援を依頼することも多い。後援申請は、だいたい次のような様式である。必ず切手を貼った返信用封筒を同封すること。


後 援 承 認 申 請 書


     様

北島町立図書館・創世ホール

拝啓。当館では次のような催しを準備しています。つきましては、貴団体にご後援をいただきたいので、申請させていただきます。
よろしくご検討のほどお願いいたします。誠に勝手ながら、○月△日までにご返事をお願いいたします。
行事名
開催日時
開催場所
内容
出演者略歴
主催
入場料
参加予定人数
他の後援団体
連絡責任者 氏名 住所 電話番号 ファクシミリ 備考 ポスター、チラシ、当日パンフレットに後援団体の名称を刷り込みます。掲載順序は不同です。経済的負担は、一切必要ありません。ポスター等、完成次第適当部数をお送りします。

広報・宣伝活動
 
宣材の準備
■催しが正式決定したら、宣伝態勢に入らなくてはならない。まず、チラシやポスターを作らなくてはならない。出演者の写 真、プロフィール、過去の公演チラシなどを送ってもらう。これらを宣材(宣伝材料あるいは宣伝素材の略称と思われる)と呼ぶ。
■写真の場合は、チラシや当日のパンフレットに撮影者の名前のクレジットが必要かどうか、また撮影者に対して写 真使用料が必要かどうか、ということについても確認しておく。出演者なり、撮影者の意思を尊重することが大切なので、撮影者をクレジットする場合、日本語表記が良いか、英語表記が良いかということについても確認するのが親切だと思う。
■写真が届くと適当枚数の複写を行なう。創世ホールの場合、写真は近くのカメラ屋さんに持って行き10枚複写 してもらう。複写写真の裏面には、細い油性ペンでアーティスト名を書いておくこと。その複写 写真をマスコミ各社に企画書といっしょに送り、後日記事にしてもらいやすいように段取りするのである。
■いうまでもないことだが、宣材資料は細心の注意をもって取り扱わなければならない。特に写 真は絶対に紛失してはならない。主催者(企画者)の信用にかかわる重要な事柄なのである。
■写真は、印刷に2回出すことになる。公演前に配布する事前告知のためのチラシやポスター用に1回、公演当日のパンフレットに1回、それぞれ使用する訳である。当日パンフレットに使用した写 真が印刷所から戻ってきたら、直ちに出演者に返却しなければならない。

チラシ等の印刷
■チラシは、催しの2か月前には作っておくべきである。また、当日パンフレットは催しの前日には完成していなくてはならない。どちらも印刷に出す前に、出演者に版下コピーを送り、チェックしてもらうこと。創世ホールの場合は職場のワード・プロセッサーで文字組みを行ない、写 真のアミがけを除いてほぼ完全版下の状態で、印刷所に入稿する。これはめいめいが、独自の方法でやればよいことである。
■チラシやパンフレットは適当部数残しておき、封印しておく。また出演者にも数十部進呈すると喜ばれる。企画者にとっても、演奏家にとっても、コンサート1つ1つが実績なので、その記録の意味がある。そして、演奏家がよその施設から「何か参考になるものを送れ」といわれたときに余分のチラシやパンフレットが活用できるのである。創世ホールの場合、当日パンフレットなどは、キャパシティ+200ぐらいの枚数を作るようにしている。

各種媒体への働きかけ
■新聞社、放送局、タウン誌、ミニコミ紙誌、中央の雑誌など、PRしたいところを常にリストアップしておく。雑誌などは、締め切りが数十日前に設定されているので、それを逆算しアプローチする。年末年始や5月の連休など、通 常と異なる締め切り設定になるので留意すること。
■郵送の場合は、封筒に朱書きで「写真在中」と書いておく。私は以前、ある催しを開催したとき、送った写 真が2つの新聞杜で行方不明になってしまった経験がある。記者も多忙であり、すべての郵便物を開封しているとは限らない。特に大事件が連続して起こったときなどは大変だろうと思う。記者の机に山積みされた郵便物の中に、数か月前に送った資料が未開封のままになっているのを目撃したこともある。従って、本来は手渡しが確実でよいと思う。
■各種媒体には過剰な期待はすべきではない。あくまで編集権は当該媒体にあるので、扱いの大小については、とやかくいえない。ただ、記事にしてもらいやすい催しなり企画というものはあるので、企画書や案内の文章は、ポイントを要領よくまとめ箇条書きにするなど、それなりの工夫が必要である。
■これまでの経験では、放送局関係者に非常識な対応をされたことが、ままあった。県外からのアーティストが演奏会の当日徳島入りをするのに、その日の夕方の番組に出て演奏してもらえないか、と驚くべきことを打診してきたりするお姉さんが現実に存在するのである。しかもそのキャスターは「これはグッドアイデアで、主催者も喜んでくれるに違いない」と自己満足しているフシがあるのだ。「アノですね。それでは肝心の、当館の演奏会ができなくなってしまうことになるのですよ」と事情 をきちんと話し、丁重にお引き取り願ったがやはり不愉快だった。番組に出してやり、宣伝をしてやるのだ、と いう特権意識がどこかにあるのではないかと思う。
■もっとひどい目にあわされたこともある。「番組で流すからビデオ映像を貸してくれ」というので、こちらもありがたいと思い、無理をいって出演者に送ってもらい、放送予定日の2週間前に局に届け、局からも「明日□時□分頃に流します」とわざわざ連絡があったのに、その時間になって「申し訳ありません。映像が悪くて使えなかったんです」と電話がかかってきて、ア然とさせられた。キャスターが明言したのだから心配なかろうと考えて、出演者や町長にも、放送されることになったと連絡していたのに、とんだメにあわされた訳だ。2週間あったのだからその間にチェックして、不都合なら「使えませんでした」といってビデオを返却したらそれでよいものを、出演者や主催者を傷つけるようなことをして平気なのである。この時はさすがに「世紀末の二宮金次郎」と呼ばれ、品行方正・謹厳実直・折り目正しい私も、腹にすえかねて抗議文を送った。その翌日、ビデオと詫び状が届いたので、一応誠意は確認したということで館と局との関係絶縁という最悪の事態には至らなかったが、私が逆の立場なら、直接出向いて謝罪しただろう。人間、潔さが大切だ。後日、音楽関係者に聞いたところでは、そのキャスターは他でも「○月○日○時に取材に行きますからネ」といって、連絡もなしでスッポカシたりしているとのことだった。要するに自分が音楽が好きで、番組でそれを取り上げたいと常に考えているようなのだが、意欲だけが先行して、ツメがいつも非常に甘いため、結果 的に人に迷惑をかけることになるのであろう。世の中には、まれにそういう困った人間がいるので要注意。
■マスコミに上記のような横着な対応をされたら、必ず抗議をするべきである。新聞に投書をしたってよい。そのことで彼らの姿勢を正しく導くことができるのだ。もちろん先にあげたような人はごくわずかである。様々な形で催しを具体的に支援してくださる尊敬すべき放送関係の方も数多い。そういう方には、進んで情報提供するべきである。私のみるところ、自分が何かの催しに関わったり、その苦労などを体験した人は、そこらへんを分かっているので、信頼してもよいと思う。

決死の覚悟で取り組む広報・宣伝
■宣伝は、まず人から人への直接的働きかけがもっとも有効であり、物事すべての基本である。「すごく面 白いと思うからぜひご家族できて下さい」とか「この催しは、あなた好みなので、1板チケットを買ってください」と他人にアプローチできないといけない。そのためにも、納得のゆく企画を立案するべきなのである。いうまでもなく自分の気の乗らない企画を、他人に自信をもって薦められる訳がないのだ。
■創世ホールの場合は、最近ではチラシを1万枚、ポスターを200枚作るようにしている。町の広報紙があるので、約7000部をそれに挟みこんで全戸配布を行ない、残る約3000部を館内やプレイガイド、その他県内外の諸施設においてもらったり、ダイレクト・メール、演奏会場での配布用などに活用するわけである。
■チラシやポスターを置いてもらうには、あらゆるつながりをフルに活用する。私は町内のタコ焼き屋さんにも置いてもらっているし、館に出入りしている書店や、楽器店、アートプロデューサー養成講座で一緒に学んだ公立施設関係者のところなどにも送っている。
■私はチラシやポスター類を常に持ち歩くようにしている。車には常に適当部数を載せておき、バッグにも入れておく。いつどこで誰に会うか分からないからである。
■コンサート会場でチラシを配布させてもらうときは、事前にその主催者に連絡を入れて、了解を取っておく必要がある。多くは、当日のパンフレットに挾ませてもらう訳だが、何時頃に行けばよいか確認しておくことが大切である。この時、あくまで我々は挾ませてもらっているのであるから、失礼のないよう十分留意する。間違っても、アンケート用紙の上に自分たちの催しのチラシを挟むようなことがあってはならない。自分がされて不愉快なことは、他人にもしてはいけないのだ。
■ダイレクト・メールを活用する。催しをしたら「アンケート」をとって、来場した人の住所・氏名を記入していただく。シリーズ化した催しの場合、ダイレクト・メールは大きな効果 を発揮する。
■本当に好きなアーティストが出演する催しなら、例え雨が降っても、嵐がきても、数時間かかかる所に住んでいても、必ず駆けつけるという人は、いるものだ。そういう熱心な人を1人でも多く見つけ、ネットワークを形成しておくことが非常に大切である。

チケットの委託
■入場券(チケット)を作ったら、プレイガイドに持参し、販売を委託する。納品書を用意して、お願いに行く。チラシにプレイガイドを記載するなら、事前にその旨を伝えておく必要がある。店内にチラシ、ポスターを掲示してもらわないといけないので、忘れずに持参する。だいたい手数料は5%である。チケットを置いてもらうお店がレコード店なら、時々CDを買うぐらいのことはするべきである。

公演当日に向けて
 
公演者との打ち合わせ
■出演者とは、会場までのルート、交通手段等を綿密に打ち合わせる必要がある。空港到着が何時になるか、あるいは車での会場到着が何時頃になるか、などなど。電話でのやりとりの場合「イチ」と「シチ」などの聞き取 りで思わぬ誤解が生じることが、たまにあるので要注意。
■また公演が近づくと、頻繁に連絡をしなくてはならない。例えば、新聞に催しの紹介記事が掲載されたら、すぐファクシミリを送り、現物か記事のコピーを別 便で郵送する。そういう積み重ねによって、より緊密な信頼関係が形成されるのだ。
■出演者によっては、色々凝った趣向をしたいという人もいる。それは極力尊重すること。ただ、それが不可能なときは「申し訳ないがそれはできない」と明言すること。

日程表の作成等
■音響・照明関係の打ち合わせ、玄関前の立て看板、受付・駐車場係・ドア係等の役割分担、楽屋のポットや湯飲みの準備、弁当の手配、釣り銭の用意、送迎の体制、ロビーでのCD売り場の体制などなど、当日までに決めておくべきこと、やるべきことはいくらでもある。催しの前日・当日の日程表は分刻みで綿密に作ること。
■《貸しホール事業でみられる最悪の事例》その催しは主催者の取り組みが遅く、チラシができたのは本番の2週間前で、照明会社との打ち合わせは前日のリハーサル時が初めてというありさまだった。おまけにその際、ピアノ調律師と、照明会社スタッフの会場入りを同じ時間にしたため、舞台での調律ができなかった。もちろん、照明装置のセットが完了するまでの数時間は一切リハーサルもできなかった。しかも前日夕方に突然、本番でスモークを出したいなどと言いだしたので、照明スタッフも会場側も大混乱をした(スモークを出す場合、事前に消防署への申請が必要)。いやしくも舞台芸術に関わる者は、こういう事態は絶対に避けるべきである。いうまでもなく出演者・主催者・音響会社・照明会社等の意思疎通 は事前に十分なされていなくてはならないのである。
■一番大切なことは、どうすれば出演者と観客が気持よく演奏会の時間を過ごせるか、ということである。このことを企画者は常に念頭においておくべきなのである。
★1 私は電気関係・機械関係に関しては全く苦手な人問で、舞台の音響のことや照明に関することは殆ど知識がない。創世ホールの小山所長は小さい頃にラジオを組み立て、アマチュア無線を長年やっていたという大変な人で、家に旋盤の機械があるわ、電気製品の簡単な故障ならハンダゴテを使って自分で直してしまうわ、配線を組み替えるわ、それはもうハード面 に関してはバリバリなのである。創世ホールが成功しているとするなら、それはそういう蓄積を持った小山さんのような貴重な人材が役場にいたことと、そういう人材を配置したことが、非常に大きな要因だと思う。私はそういう所長に敬意を払っており、だから「こんな企画を通 してくれたのだから、絶対に人をたくさん集めて成功させよう」という姿勢になるのである。これが非常に大切な要素であることはいうまでもない自1999・1・12脱稿

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